COLUMN
疾患
猫伝染性上気道疾患について
2024.10.24
猫伝染性上気道疾患(FURTD)とは
若齢猫で多く遭遇する感染性上気道疾患の一つです。
猫ヘルぺスウイルス1型(FHV-1)猫カリシウイルス(FCV)が主な一次原体として知られています。ボルデテラ(Bordetella bronchiseptica.)やクラミジア(Chlamydia felis.)が一次病原体となることがあります。
各病原体による臨床徴候や予後
・猫カリシウイルス(FCV)
主に口内炎・潰瘍を示します。口腔内潰瘍の改善には2~3週間程要します。
滑膜(関節の内部)に感染し、関節炎による跛行を示すこともあります。
結膜炎・鼻汁・くしゃみ・眼脂は猫ヘルペスウイルス1型感染症に比べると軽度なことが多いです。
回復後も持続感染し30日以上ウイルスを排泄し続けます。排泄されたウイルスは室温で1ヶ月以上感染性を残します。
・猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)
猫伝染性鼻気管炎(FVR)とも呼ばれます。
重度の結膜炎・くしゃみ・鼻汁を示します。重症例では咳や呼吸困難の症状が見られ肺炎・全身感染に至ることがあります。
ウイルスは神経細胞に潜伏感染し、身体から完全に居なくなることはありません。猫がストレスを受けたり、免疫力が落ちたりしたときにウイルスが再活性化しますので、再発がしばしばみられます。
粘膜や鼻甲介の障害が残り慢性の鼻炎・結膜炎に罹患しやすくなる子もいます。
・クラミジア(Chlamydia felis.)
重度の結膜炎・眼脂を特徴とします。
結膜スワブで上皮細胞室内に封入体が確認されることがあります。感染から50日程度、特に罹患から2週間で最も多く見られます。
・ボルデテラ(Bordetella bronchiseptica.)
比較的軽症でくしゃみや鼻汁が見られます。
猫伝染性上気道疾患(FURTD)の診断
症状を呈する猫との接触・多頭飼育環境など確認し、それぞれの特徴的な症状から推測します。
病原体の検出には深咽頭スワブを用いたPCR検査を行う事もありますが、陽性でも必ずしも病原体が存在するわけではないので注意が必要となります。
猫伝染性上気道疾患(FURTD)の治療
軽症であれば自然軽快します。
免疫力を上げるためのインターフェロン投与、クラミジアやボルデテラ・二次感染に対する抗生剤投与を行います。
ヘルペスウイルスに対しては抗ウイルス薬を使用することがあります。
鼻汁の粘膜溶解作用を期待して点鼻やネブライザーを行うことがあります。
最後に
お迎え後の環境の変化で免疫力が低下した子猫でよくみられます。また、猫ヘルペスウイルス1型は潜伏感染するので大人の猫でも発症することが多々あります。
猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルス1型はコアワクチンの中に含まれています。どちらも発症予防ワクチンで感染予防ワクチンではありません。適切な時期での定期接種が必要ですのでご相談ください。
症状の悪化や長期化することがあるので早めの受診をお勧めします。
副院長 平林